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  • 2006.05.06 Saturday
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山羊を連れて

山羊を連れて                  河合民子

山羊を連れてれてれれと
言うから
だじでぃどぅでぇどーだど
真っ黒の顔に目玉が赤い人は
まっ白の赤い目玉の山羊が怖い
はい、それはれきないのれす
はい、ごめんそぅれーめんそぅり
らけど、あしたなら
らりるれろろと
海歩く
あっちゅんど

海んちゅは、
山羊の解体と明日の漁を語った
…れも、あちゃーぬ海が荒れたなら
ぬーぬーわんやあびぃんがや

自分に問うた
実は僕は山羊の首を切りたくはないのだ
と海んちゅは思っていた
目から涙が流れているのに
わんやならんしが
ならんしが
あんなこと

またしても嘆いた
血で染まる海辺で
鉄の匂いがするのだよ
血の生臭さは鉄の錆ら!
海あっちやーは
おろろしくて、気がるるるとふらあになりそうで
もう
ろうしようと思っていた。

山羊を連れて海人が行く
どこへ
海の近くの原っぱへ
海の風で育った草が好きなんだ
僕の山羊は

僕は海の風の歌を聴くのだった
はぁはぁしぃしぃはぁしぃしぃ
と僕の風は吹いていった
僕のひぃじゃーはでれかい睾丸が重たげだが
食欲がある
山羊の匂いと風の匂いが
僕の現在の匂いだ

あしたのビーチ・パーリーで
あんやたん
あんやしが
やしが
わんぬひーじゃーやならぬ
と僕は言えるのか
と海に落ちる夕日を眺めて
山羊を撫でている

あちゃーぬ 海は 荒れてくれ
二月の風廻り
ぬうぬう抜かさず吹いてくれ
れれろろらりるれろ
山羊を連れて
海んちゅは
れれれれれれれ
叫んだ

同人誌「KANA」11号より

「海と母と糸と飴」

すりガラス色の光に蔽われた幼児期の記憶の底には赤い絹の糸が絡まったような
それは幾ら年月を重ねてみても臓物に組み込まれて離れない脂肪のような思い出がある。
絡まった糸は手繰り寄せてみようとしても
痛いばかりだ。
寂しくなって酒を飲んでいる夜。
その痛さに触れたくなるのか。
絡まった糸が私へ向かって転がってくる。
私はそれを手に取ると赤いものを口へと放る。
自分の臍の緒を引っ張り出している。
見ることもなく
触ることもなく
いつも私の体の奥に仕舞い込まれている。

平和通を抜けて開南でバスを待っていた。
母は日差しを避けるためにパラソルを差した。
母のパラソルは虹のように広がった。
私は赤い籐のバスケットから缶に入ったドロップを取り出した。
ネーブルオレンジの飴は口の中で右から左へと転がった。
島の中北部へと向かう牧志の停留所とここではバス待ちの人たちの雰囲気が随分と違っていた。
日に焼けた肌が真っ黒で深いしわが刻まれていて、老婆は二の腕まで農紺色の針突を施していた。集まっている女たちの年齢は幼い私には見当がつかず、桜坂の夜の女たちの華やかさに慣れた私の目には、皆が老婆のように見えていた。
バスに乗り込む女たちは野菜の行商の帰りらしく大きな籠を抱えていた。やはり、私には女たちの年と同じくその顔付きまでが同じように見えていた。
母が私のお尻をつねり、

  そんなに人の顔をじろじろと見るんじゃない。

小声で耳打ちした。
座席に落ち着いた女たちの無遠慮な視線も母と私に集まった。
水玉模様のワンピースに糊のきいた短いボレロの母。大事そうにケリーバッグを膝に置いている。私はお気に入りの父の東京土産の赤いベルトの付いた革靴を履いていた。
乗客は一人降り、二人降り、
気が付くと糸満のロータリーだった。

  ここからはタクシーにしよう。

母はタクシーを拾う前に大通りから少し奥まった路地の食堂へ私の手を引いて入った。
おそばを一つだけ取り、私の分のジュースを注文した。小さな汁椀を頼むと母は私のおそばをふうふうと冷ましながら取り分けた。
母のどんぶりからは湯気が立ち真っ赤な紅しょうががたっぷりとのっていた。紅しょうがは嫌いだったが母がすするどんぶりの汁が微妙なピンク色になっていくのを見るのが好きだった。


タクシーはシボレーで大きすぎて農道へは入れないと小高い場所の赤瓦の小さな部落が見下ろせる入り口で降ろされてしまった。水平線がゆるい大きな弧を描いていた。

  妙な風が吹いてきたよ。あっちの岬から足元を触るような風が吹くと海が荒れる。

運転手はそう言うと母へ釣を渡していた。長く蛇行した坂道をどれ位の時間歩き通したのか。
キビ畑の背の高い葉は怒ったように波打つようにうねり揺れていた。

   あの海まで

私の遠い記憶の中で、母と二人、木麻黄林を抜けて強い風の吹きつける浜辺に立っていた。風は乱暴に頬へ砂粒をたたきつけていた。
風は二人の背中をあらゆる方向から押しつづけ、母は私を抱きしめて砂浜へしゃがみ込んだ。
私はぜえぜえと肩で息をしていた。
私を抱える母の腕も冷たくて
風は剃刀のようにわずかな隙間からも巡り込んでは母と私を切り離そうとした。
こんな日を選んで私を海に連れてきた母は

  喘息には海風を吸うのが一番なのよ。

海での記憶はそこで途絶えている。
赤い糸の絡まった玉は幼い私の胸の中で抱えきれないくらいになり私の周りでは得体の知れない大人たちの空気が歪んだ映像となって苦しげな息が飛び交い、すえた匂いを放った。

  喘息には気をつけて。よく、休みなさい。

何故か母は家の玄関の前で私の背を押すようにした。玄関では父と祖母が私を迎えた


その日から母が家から姿を消した。
白い短いボレロ姿の母は、
あの日私を連れて海の何を見に行こうとしたのか。


ゆっくりと飲む酒の舌先に残るものは
オレンジ色の飴の味がする。

1995.8

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