スポンサーサイト

  • 2006.05.06 Saturday
  • -
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

一定期間更新がないため広告を表示しています


芋と裸足

<2004年3月30日> 沖縄タイムス朝刊 1版 文化12面(火曜日)

寄稿
[唐獅子]/芋と裸足/河合民子
 
「芋と裸足」という戦前の沖縄をいう表現がある。とても差別的な嫌な言い方だと思っていたが、そういう風に思うのは、ヤマト思考になっている証拠ではないかと思っている。

 明治政府初期の沖縄県令西村が、面白い観察をしている。「食糧の芋は二ヵ年に五回取れる。殊に芋は一反の内で、甲の部を掘りとって食い、乙丙丁を食いまわるうちに、又甲の部が食えるようなことで」という、少し侮蔑に満ちた表現で沖縄の農村の食生活の風景を書いている。沖縄各地の郷土史を読んでも、戦前までの食生活は、芋と豆腐とカラスグヮー、そして味噌汁なのだ。そんなに貧しい献立でもないと思うが、シマの生活の中では米は特別な日の別格のごちそうだったのだろう。


 甘藷(芋)は、嘉手納町出身の野国総官という人が、禁を犯して中国から持ち出した。それを三浦按針(ウイリアム・アダムス)が、琉球から長崎の平戸へと持ち帰ったものが北九州一帯に広がった。薩摩の琉球入りのすぐ後くらいの話だ。三浦按針は二度も琉球へ寄港しているが、いずれもシャムへ行く途中、暴風に遭っている。彼は首里城へ招待されても、関心がなかったらしく、後の時代のバジル・ホールをうらやましがらせた。薩摩への「唐芋」伝来は、それ以降のことだ。芋はこうして日本全国へと広がっていった。嘉手納町では、今年、甘藷伝来四百年祭が行われるという。


 奄美・沖縄というのは、南方系のいろんなものの北限のようだ。里芋、田芋、キャサバ、海ブドウ、ウンチェーバーといろいろ。ジュゴンの回遊海域もオーストラリアから広がる海の、その北限らしい。辺野古沖のジュゴンは、北の海を泳いでいるジュゴンというわけだ。沖縄人は米よりも芋が好きだったんじゃないかと考えている。ここに人の移動のストーリーが隠されているのだろう。


 フィジー、ハワイ、と主に芋類を食べてきた人たちがいる。沖縄人もそういう芋文化の人たちではなかったのか。「芋と裸足」が何故悪いと思う。(作家)


軒下のしずく

<2004年3月2日> 沖縄タイムス朝刊 1版 文化9面(火曜日)
寄稿

[唐獅子]/河合民子/軒下のしずく
 
沖縄の冬はどうしてこうも曇っているのだろう。だらだら雨が降っている。家の軒から雨だれが落ちていくのがみえる。

 軒から落ちた雨だれは、この世とあの世の境界をつくった。ここを北谷地方では「ナカジン」と呼んだ。子供が生まれると、出産後の包衣や胎盤はここに埋められた。あまり雨にうたれると「ナラソーソー」する人になるといって、少し、家の内側へ埋めたらしい。


 私は生まれてすぐに祖母によって、蒸し器の上に置かれたという。どういう呪術なのかを母は知らなかったが、私が小さな赤ん坊だったんだろうと思っている。大きく膨れるようにと祈ったのだろう。私の息子たちも小さく生まれた赤ん坊だったのを思い出す。すっかり育ってしまったけれど、長男が生まれたときは、ちゃんと育てることができるだろうかという不安でいっぱいだった。


 昔の女の人の出産は命がけだった。妊婦である期間のタブーを乗り越えて出産しても、その子が死産児だったときの落胆は大変だったろう。こういう死産児も軒の雨だれの下、竃の近くなどに埋められた。「後生は雨だれの下」ということわざもあるという。竃の火の神を拝むのは女だ。「火の神の近くに死産児を葬るのは、それをる女性に再び宿るという信仰が背景にあったのかもしれない」と民俗学者は書いている。


 母親は竃のある土間にいることが多いし、埋められた子供といつも一緒にいるような気になっただろう。その子が、自分の足をはい上がってきて再び命を宿すかもしれない、生まれ変わってくるかもしれないという強い願いがあったと思う。こういう呪術は沖縄だけではないらしく、「死児の魂を招きいれて、次の子供を得たい」と「アンダマン島民(インドネシア)は炉の下、台湾の高砂族のあるものは入り口のしきいの下に埋める」らしいのだ。


 子供がおなかの中にいたときの幸福感を時々思い出す。あれほど満ち足りていたときはなかったと懐かしく甘美だ。(作家)


もちつきうさぎと水汲みの乙女

<2004年5月11日> 沖縄タイムス朝刊 1版 文化9面(火曜日)

寄稿
[唐獅子]/河合民子/もちつきうさぎと水汲みの乙女
 
お月様ではうさぎが餅をついていると教えられた。お月見にススキを飾り、白玉餅を作ったりしてまだ暑い盛りの時期にお月見をした夜を思い出す。しかし、沖縄人が古来月に見ていたのは、水汲みの乙女だったらしいのだ。水汲みの様子は琉歌にも数多く歌われている。潮水を汲んだりもしている。潮水は、とうふを作ったり、塩の代用もしたらしい。どうやら「私のお月見」もありもしないヤマト風を教えられたものなのかと考えているところだ。

 餅つきというのは、復帰後は沖縄でも年末の風物詩として登場するが、あの餅というのは、実はわれわれの餅ではないのだ。杵でつき、ぷぅっと膨れて、どんどんのびる餅というのに沖縄県民はお目にかかる機会がなかったはずだ。私はムーチーではなく、ああいう餅を一度食べてみたいと幼い心に思ったものだった。満月に見える影は、うさぎが餅つきをしているのだよ、と誰に教えられたのだろうか。「餅つきうさぎ」を見つけようと私は月を眺めつづけていたのだ。


 民俗学者は「同じ大陸から文化を学んだ南と北の地域で、なぜに異なった二つの連想が生じたのであろうか」と問い、「つまり農耕的なものと非農耕的な風土の相違が、月に抱く幻想の違いという気がする」と推理している。


 水汲みは若い女の仕事だった。水を汲むのは井泉だ。井泉はシマ共同体の紐帯のようなものだ。その水を浴びることによって赤子はシマの成員として受け入れられ、また死んだ人を浴びせる湯灌の水もこの井泉から汲んできた。井泉の水というものの正体は、隆起さんご礁にたまった雨水だ。井泉とは、そのすき間をぬって走る水路が切れてわき出す泉だ。いくつものフィルターをくぐってきた井泉の水は甘い。しかし、乙女の水汲みの仕事は過酷なもので、急勾配の坂を下った井泉へ行かねばならないシマもある。伊計の嫁になりたいけど、あの水汲みを考えるとびびるという内容の琉歌もある。日に二度というのが水汲みの仕事量だった。


 蛇口をひねると水が出てくる生活から井泉の生活へ戻ろう、と考えるほどわれわれは愚かではないが、便利さとともに、流れ去ったものもあったということを心しなければと思う。(作家)


フーチバーの呪力

<2004年1月20日> 沖縄タイムス朝刊 1版 文化9面(火曜日)
寄稿
[唐獅子]/河合民子/フーチバーの呪力

 鍛冶技術は稲作をすすめるうえでの技術革新だった。その技術を携えて琉球国を統治したのが察度王統といわれた王族だったと私は考えている。

 この王統の末裔が行っていた鍛冶屋の祭・フーチヌウィエーというふいご祭がある。十一月に行われた。ふいごはフーチョーパンチョーというらしい。そして、このフーチというのが、沖縄県民の大好きなフーチバーとかかわっているらしいのだ。フーチバーは「吹きあげる葉」というわけだ。三月の浜下りの女の節句にはフーチムチ(よもぎ餅)を作り、八月十五夜の月拝みの日にはフチャギ(吹上げ餅)が火の神へ供えられた。そしてフーチヌウィエー(ふいご祭)にもフーチムチがごちそうとともに並んだ。ふいごの力強く生み出す力が、火の神と、女という性と、フーチバーの薬草としての呪力とともにあったということだろう。


 このフーチバーの呪力は、古代社会では、もっと強力だ。『琉球列島における死霊祭祀の構造』で酒井卯作が書いている。これは奄美大島の昔話。「昔、死んで一週間になるまでは、蓬(フツ)をとってきて、生きれ、生きれ、と言って人の体をなでると」生き返ったが、ばか者がこの「生き蓬、死に蓬」を大切にしないで尻を拭いてしまって、それから、よもぎには人を生き返らせる力がなくなってしまった。


 人をそういう風に再生させたいと考えていた人たちの心には何があったのだろう。死という恐ろしい出来事をどう乗り越えたのか。愛する人は、生き返ってほしいと考えたと思う。再び生まれ変わって誰かの中で生きていると。だから、生き返らなくなった人間のわけをいろいろと考えた。よもぎ(フツ)の悲劇もそこにあるのだろう。


 人の愚かしさで再生能力を失ったフーチバーは、それでも火の神、ふいごと乗り移っていった。時空間を越えてもその呪力を保っているのは、不思議なことだと思う。沖縄県民のフーチバー好きには深い理由がありそうだ。(作家)

calendar
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< August 2017 >>
sponsored links
Apple Store
Apple Store for Education
selected entries
categories
archives
recent comment
recommend
recommend
recommend
recommend
recommend
recommend
訳注 質問本草
訳注 質問本草 (JUGEMレビュー »)
呉 継志, 原田 禹雄
recommend
recommend
recommend
遺伝子神話の崩壊
遺伝子神話の崩壊 (JUGEMレビュー »)
ディヴィッド・S・ムーア, 池田 清彦
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM

Apple Store Apple Store for Education
e-onkyo.com d112e_468x60
リンク・シェア
LinkShare アフィリエイト
アイ・キッチン
特集(母の日特集2006)
モノマニア
モノマニア
search this site.
others
mobile
powered

このページの先頭へ▲